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【 Alalá de Muxía 曲の解説】
高野陽子 (Vo.), Sally Lunn (Psalterium), Tomo Yoshikawa (Hurdy Gurdy)
私が魂の故郷と感じるほどガリシアで一番魅かれた海沿いの美しい小さな街、Muxía ムシアに伝わる歌。サンティアゴ巡礼の聖地でもあり、コルーニャ県のこの辺りの大西洋に面した約150kmの海岸は、Costa de Morte (死の海岸)と呼ばれている。
この地の伝説によると、聖サンティアゴ(ヤコブ)が布教活動がうまくゆかず失意の底にあった時、海の向こうから天使に導かれた小舟に乗った聖母マリアが現れ、悩めるサンティアゴを励ましたという。
聖母は「船の聖母 Nosa Seiora da Barca」として海からすぐの岩の上の礼拝堂に祀られており、すぐ近くには聖母が乗ってきたという船の帆と伝わる「揺れる岩」があり、この歌の歌詞にも登場している。巡礼者たちは自分の悩みが聖母に聞き届けてもらえたかどうかを、この岩に乗って占う。揺らすことが出来れが聞き入れてもらえ巡礼の目的が達成されたこととなる。
もう一つ聖母が乗ってきた船の船体とされる「腰の岩」は、地面と岩の隙間を這って9回くぐると 腰痛が治ると信仰されている。「9」という数字はガリシアの民間信仰に根付く数字で、私も訪れたことのあるサン・アンドレス・デ・テイシドという巡礼の聖地にも、「9つの波」の力を身体に受けて3人の乙女が身を清めるという伝説がある。
「3」という数字は私も大好きなケルティック文様のひとつである「トリスケル」に象徴されるように、ケルト世界では祈祷的な意味をもつ数字。聖なる数字「3」を三回繰り返す(=「9」)によって、その力がより強まり、厄を浄化すると考えられてきたそうだ。
聖サンティアゴ(聖ヤコブ)のお墓が発見されるローマ・カトリックの流れの以前からケルトの修道士達が海を渡って船で航海していたという伝説がガリシアだけでなく、アイルランドやブルターニュなどのケルト文化圏の各地に伝わっている。
この土地からも、伝説、物語の古層にはケルト、そしてもっと古い古代の民間信仰などが、時のミルフィーユのように折り重なっていると感じる。ムシアには巨石があちこちに見かけられ、古代の祭祀場だったような岩地がある。まさに日本の磐座さながら ケルトの女神が君臨してたかのよう。
磐座の割れ目の中に入ってみると そこは洞窟のようで、母なる子宮のようで、、
なんともいえない安堵感で安らいだ。ずっとここにいていたくなった。
海の彼方にある「常世の国」「異界」「死者の世界」…ケルト世界では「ティルナノーグ」
そして舟は「あの世」と「この世」を結ぶシンボリックな乗り物だ。この歌の背景には波の音を入れたいイメージがあり、いくつかの自分で録音した波音からエンジニアさんに採用されたのは 日本の聖地のひとつでもある熊野の海、去年、那智の浜で録音した夜の海の波音。熊野にも海の彼方に理想郷・常世の国の伝説があると信じられており、那智の浜は中世の僧侶たちが浄土を目指して捨て身で船で海を渡っていった補陀落渡海の出発点でもある。何かシンクロしたように感じた。
曲のエンディングでこの波音をバックに聴こえてくる鐘のような響きも、中世古楽奏者のSally Lunnさんによるプサルテリウム演奏。伝統的なイギリスの教会の鐘のルールに「Plain Hunt on six Bells」 という奏法だそうだ。そして海を渡るカモメの鳴き声も、数年間のガリシア音楽留学から帰国されたTomo Yoshikawaさんによるハーディ・ガーディ演奏。